カノニカル分布における理想気体の分配関数の計算(古典近似)

この記事ではカノニカル分布の理想気体について古典近似を用いた分配関数 \[Z_C=\frac{1}{h^f} \int \cdots \int e^{-\beta E} dp_1 \cdots dp_f dq_1 \cdots dq_f\] の計算方法を紹介し,この分配関数を用いて様々な物理量を導出します。

あわせて読みたい
カノニカル分布の特徴と分配関数をわかりやすく導出する ミクロカノニカル分布とカノニカル分布の違いや,カノニカル分布における分配関数の求め方についてわかりやすく紹介します。
目次

カノニカル分布における理想気体

カノニカル分布における理想気体の物理量を計算するために,次のような系を設定しましょう。

カノニカル分布では,粒子数 \(N\),体積 \(V\),温度 \(T\) は一定であると考えます。

カノニカル分布系の設定
  • 粒子数は \(N\)
  • 気体は一辺の長さ \(L\) の立方体の中に閉じ込められている(\(V=L^3\))
  • 粒子のハミルトニアンは \(m\) を粒子の質量として \[\mathcal{H}=\sum_{j=1}^{N}\frac{1}{2m}(p_{jx}^2+p_{jy}^2+p_{jz}^2)\] \(j\) は粒子の番号で \(j=1,2,\cdots ,N\) をとる
  • \(p_j\) は \(j\) 番目における粒子の各方向の運動量
  • \(\beta\) は逆温度で \(\beta=1/k_B T\)(\(k_B\) はボルツマン定数,\(T\) は温度)

ここではエネルギー \(E\) は連続的に動くものとし,古典近似を用いて理想気体の性質を調べます。

分配関数の導入

カノニカル分布における重要な値として次の分配関数があります。

カノニカル分布の分配関数(古典系)

古典近似を適応したとき,カノニカル分布の分配関数は \[Z_C=\frac{1}{h^f} \int \cdots \int e^{-\beta E} dp_1 \cdots dp_f dq_1 \cdots dq_f\] で与えられる(\(h\) はプランク定数,\(f\) は系の自由度)

カノニカル分布の計算では分配関数を求めると大半の欲しい物理量は多少の計算だけで機械的に求めることが出来るようになります。従って,以下ではこの分配関数を計算します。

あんとら

量子近似における分配関数は下の記事で扱っていますのでよろしければご覧ください

あわせて読みたい
カノニカル分布における理想気体の分配関数の計算(量子近似) カノニカル分布の理想気体について量子近似における分配関数の計算方法を紹介し,この分配関数を用いて様々な物理量を導出します。

分配関数の計算

理想気体においては,\(N\) 個の重複を避けるために事前に \(N!\) で除した分配関数

\[Z_C=\frac{1}{h^f N!} \int \cdots \int e^{-\beta E} dp_1 \cdots dp_f dq_1 \cdots dq_f\]

を計算します。この積分は \(p,q\) が独立しているので次のように変形できます。

\[\begin{align}Z_C &= \frac{1}{h^f N!} \int \cdots \int e^{-\beta E} dp_1 dp_2 \cdots dp_f dq_1 dq_2 \cdots dq_f \\ &= \frac{1}{h^f N!} \int \cdots \int e^{-\beta E} dp_1 dp_2 \cdots dp_f \int_{0}^{L} \cdots \int_{0}^{L} dq_1 dq_2 \cdots dq_f\end{align}\]

\(q\) の積分

まず \(q\) について考えます。一般化座標 \(q\) の積分は体積になるので \[\int_{0}^{L} \int_{0}^{L} \cdots \int_{0}^{L} dq_1 dq_2 \cdots dq_f =L^{3N} =V^N\] となり,求めることが出来ます。

この系では \(N\) 個の粒子が3方向に独立に動くので,自由度について \(f=3N\) が成り立つことを使っています。

\(p\) の積分

続いて,\(p\) について考えます。

\(e^{-\beta E}\) の \(E\) は系の全エネルギー,すなわちハミルトニアン \(\mathcal{H}\) のことであるのでこれを代入して計算するのですが,多少計算を楽にするために先に次のように変形しておきます。\[\sum_{j=1}^{N}\frac{1}{2m}(p_{jx}^2+p_{jy}^2+p_{jz}^2)=\sum_{j=1}^{3N}\frac{p_j^2}{2m}\] 分配関数に \(E=\mathcal{H}\) と \(q\) の積分結果を代入して

\[\begin{align} &Z_C=\frac{V^N}{h^{3N} N!} \int \cdots \int e^{-\frac{\beta}{2m} (p_1^2+p_2^2+ \cdots p_{3N}^2)} dp_1 \cdots dp_{3N} \\
&= \frac{V^N}{h^{3N} N!}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\frac{\beta}{2m} p_1^2}dp_1 \int_{-\infty}^{\infty}e^{-\frac{\beta}{2m} p_2^2}dp_2 \cdots \int_{-\infty}^{\infty}e^{-\frac{\beta}{2m} p_{3N}^2}dp_{3N} \\ &= \frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\frac{\beta}{2m} p_1^2}dp_1 \right)^{3N} \end{align}\]

この積分はガウス積分の形なので \[\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\frac{\beta}{2m} p_1^2}dp_1 =\sqrt{\frac{2\pi m}{\beta}}\] であり,これより理想気体の分配関数は

\[Z_C=\frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(\frac{2\pi m}{\beta} \right)^{\frac{3N}{2}}\]

と計算できます。

あわせて読みたい
ガウス積分の導出と頻出の積分公式5つ・使用例の紹介 統計学でよく出てくるガウス積分について極座標変換を用いた導出方法を紹介します。また,ガウス積分の公式として5つ,導出方法を含めて紹介します。

様々な物理量の計算

分配関数が求まったので,次の式を用いてエネルギーやエントロピーの計算をしてみましょう。

カノニカル分布における物理量まとめ

カノニカル分布において,エネルギー \(E\),エントロピー \(S\),ヘルムホルツの自由エネルギー \(F\) は次の式を用いて計算できる

  • エネルギー \(E\) \[E= -\frac{\partial \log Z_C}{\partial \beta}\]
  • エントロピー \(S\) \[S=\frac{E}{T}+k_B \log Z_C \]
  • 自由エネルギー \(F\) \[F=-k_B T \log Z_C\]

計算方法はこちらから

あわせて読みたい
カノニカル分布のエントロピーやエネルギー,その他物理量の導出方法 カノニカル分布におけるエントロピー S や自由エネルギー F を分配関数を用いて導出する方法を紹介します。

これより,実際に計算するとエネルギー \(E\) は

\[\begin{align}E &= -\frac{\partial }{\partial \beta}\log Z_C \\
&= -\frac{\partial }{\partial \beta} \log \left[ \frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(\frac{2\pi m}{\beta} \right)^{\frac{3N}{2}} \right] \\
&=-\frac{\partial }{\partial \beta} \left(\log \frac{V^N}{h^{3N} N!} (2 \pi m)^{\frac{3N}{2}} -\log \beta^{\frac{3N}{2}} \right) \\ &= \frac{3N}{2 \beta} =\frac{3}{2} N k_B T \end{align}\]

エントロピー \(S\) は

\[\begin{align} S &=\frac{E}{T}+k_B \log Z_C \\ &=\frac{3}{2}Nk_B+k_B \log \left[ \frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(\frac{2\pi m}{\beta} \right)^{\frac{3N}{2}} \right] \\ &=\frac{3}{2}Nk_B +k_B \log \left[ \frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(2\pi m k_B T \right)^{\frac{3N}{2}} \right] \end{align}\]

自由エネルギー \(F\) は

\[\begin{align} F &=-k_B T \log Z_C \\ &= -k_B T \log \left[ \frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(\frac{2\pi m}{\beta} \right)^{\frac{3N}{2}} \right] \\ &=-k_B T\log \left[ \frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(2\pi m k_B T \right)^{\frac{3N}{2}} \right] \end{align}\]

と計算することが出来ます。

あんとら

代入するだけで答えが求まるところに分配関数のありがたみがあります

気体の状態方程式

気体の状態方程式も導出しておきましょう。ここでは先ほど得た \(F\) と熱力学関係式より \[p=-\left(\frac{\partial F}{\partial V} \right)_{N,T}\] を計算すると

\[\begin{align} p &=-\left(\frac{\partial F}{\partial V} \right)_{N,T} \\ &=k_B T \frac{\partial }{\partial V}\log \left[ \frac{V^N}{h^{3N} N!} \left(2\pi m k_B T \right)^{\frac{3N}{2}} \right] \\ &= \frac{k_B TN}{V}\end{align}\]

となり,気体の状態方程式 \(pV=Nk_B T\) を導出することが出来ました。

あわせて読みたい
ミクロカノニカル分布における理想気体の状態数の計算方法 ミクロカノニカル分布(小正準集団)における理想気体の状態方程式と様々な物理量を古典近似を使ってわかりやすく導出します。

おすすめ参考書

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次