ガウス積分の導出と頻出の積分公式5つ・使用例の紹介

統計力学や量子力学の計算で頻出であるガウス積分\[\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}dx\] について,導出と積分公式,及びその導出を紹介します。

この記事でわかること
  • ガウス積分の極座標変換を用いた導出方法
  • 他の分野で頻出のガウス積分の公式
  • ガウス積分の公式の証明
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目次

ガウス積分とは

\(e^{-ax^2}\) の \([-\infty,\infty]\) における積分

\[\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}dx\]

をガウス積分といいます。

この積分は大学の微積分学で習う典型的な広義積分の1つであり,量子力学や統計学でしばしば登場します。

実際にガウス積分を使う例

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(参考)\(y=e^{-ax^2}\) のグラフ

\(y=e^{-ax^2}\) のグラフを図示すると次のようになります(グラフでは \(a=1\) としています)。

y=e^{-ax^2} のグラフ
\(y=e^{-ax^2}\) のグラフ

ガウス積分とは,図の橙色で囲まれた部分の面積を求めることであり,結論を先に書いてしまうと,その値は \(\displaystyle \sqrt{\frac{\pi}{a}}\) になります。

ガウス積分の基本

正の実数 \(a\) に対し \[\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}dx=\sqrt{\frac{\pi}{a}}\] が成り立つ

また,\(y=e^{-ax^2}\) は偶関数であるので,特に \(a=1\) のとき \[\int_{0}^{\infty} e^{-x^2} dx= \frac{\sqrt{\pi}}{2}\] が成り立つことがわかります。

ガウス積分の導出

ガウス積分の計算ではまず \[ I=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}dx\] と,この積分を \(x\) から \(y\) に変数変換した積分 \[ I=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ay^2}dy\] を用意します。

この2つの積分は文字が違うだけなので値が変わることはありません。

そして,これら2つを掛け合せたもの \[ I^2=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-a(x^2+y^2)}dxdy\] について,極座標変換 \(x=r \cos \theta,y=r \sin \theta\) を考え,計算を進めます。

あんとら

変数変換をし,極座標に持ち込むという発想はかなり天下りである為,ある程度手段として覚える必要があります

ガウス積分の導出

\[ I = \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}dx=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ay^2}dy\] とおく。このとき \[ I^2=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-a(x^2+y^2)}dxdy\] であり,\(I^2\) を極座標変換 \[x=r \cos \theta, \; y=r \sin \theta\] することを考える。このとき, \(dxdy=rdr d\theta\) となる。
また,積分区間について,\(x,y\) の積分区間が \(0 \to \infty\) のとき,\(r\) の積分区間は \(0 \to \infty\),\(\theta\) の積分区間は \(0 \to 2\pi\) となる。
従って \[ \begin{align} I^2 &=\int_{0}^{\infty} \int_{0}^{2\pi} e^{-ar^2}rdrd\theta \\ &= \int_{0}^{2\pi}d\theta \int_{0}^{\infty}e^{-ar^2}rdr \end{align}\] ここで \[ \int_{0}^{2\pi}d\theta =2\pi\] \[ \int_{0}^{\infty}e^{-ar^2}rdr =\left[ -\frac{e^{-ar^2}}{2a} \right]_{0}^{\infty}=\frac{1}{2a}\] よって \[I^2 = \frac{\pi}{a}\] \(I>0\) であるので \[ I=\sqrt{\frac{\pi}{a}}\]

ガウス積分の重要公式

ガウス積分では被積分関数が \(e^{-ax^2}\) でした。しかし,実用上ではこの被積分関数を少し変えた形の計算が求められることが多々あります。

以下ではガウス積分に関連した様々な公式とその計算過程を紹介します。

ガウス積分の公式

\(a,b\) は正の実数とする。このとき次の公式が成り立つ

  • 公式1 \[\int_{-\infty}^{\infty} e^{-a(x-b)^2}dx=\sqrt{\frac{\pi}{a}}\]
  • 公式2 \[\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2+bx}dx=e^{\frac{b^2}{4a}} \sqrt{\frac{\pi}{a}}\]
  • 公式3 \[\int_{-\infty}^{\infty} x^2e^{-ax^2}dx=\frac{1}{2a} \sqrt{\frac{\pi}{a}}\]
  • 公式4 \[\int_{-\infty}^{\infty} x^{2n-1}e^{-ax^2}dx=0\]
  • 公式5 \[\int_{-\infty}^{\infty} x^{2n}e^{-ax^2}dx=\frac{(2n-1)!!}{(2a)^n}\sqrt{\frac{\pi}{a}}\]

ガウス積分の公式の証明

実際にガウス積分の公式の証明をしてみましょう。

公式1の証明

グラフの平行移動したときの面積部分を考えることによって計算なしに導出することが出来ます。

公式1の証明

\(y=e^{-a(x-b)^2}\) のグラフは \(y=e^{-ax^2}\) のグラフを \(x\) 軸正方向に \(b\) 移動させたものであるので,\([-\infty ,\infty]\) で積分した値は変わらない。したがって \[\int_{-\infty}^{\infty} e^{-a(x-b)^2}dx=\sqrt{\frac{\pi}{a}}\]

公式2の証明

指数の部分を平方完成します。

すると公式1で出てきた形が使えるようになるので公式1をそのまま使うことにより導出することが出来ます。

公式2の証明

\[ -ax^2+bx=-a \left(x-\frac{b}{2a}\right)^2+\frac{b^2}{4a}\] であるので \[ \begin{align} &\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2+bx}dx \\ &=e^{\frac{b^2}{4a}}\int_{-\infty}^{\infty} e^{-a \left(x-\frac{b}{2a}\right)^2}dx =e^{\frac{b^2}{4a}}\sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{align}\] よって公式2を得る。

公式3の証明

部分積分法を使うことにより導出することが出来ます。

公式3の証明

\[ \begin{align} &\int_{-\infty}^{\infty} x^2 e^{-ax^2}dx
\\ &=\left[ -\frac{x}{2a}e^{-ax^2}\right]_{-\infty}^{\infty}+\int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{2a}e^{-ax^2}dx
\\ &=\frac{1}{2a}\int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}dx
\\ &=\frac{1}{2a} \sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{align}\] よって公式3を得る。

公式4の証明

被積分関数が奇関数であることを使って証明します。

尚,被積分関数の偶奇性を使わずに直接計算しても示すことは出来ます。

公式4の証明

\(x^{2n-1}\) は奇関数,\(e^{-ax^2}\) は偶関数であるので \(x^{2n-1}e^{-ax^2}\) は奇関数である。積分区間は \([-\infty ,\infty]\) であるので,この積分は 0 となる。よって \[\int_{-\infty}^{\infty} x^{2n-1}e^{-ax^2}dx=0\] である。

公式5の証明

公式3と同様に部分積分を使って導出します。

1回の部分積分だけでは求めることは出来ないので \[I_n=\int_{-\infty}^{\infty} x^{2n}e^{-ax^2}dx\] とおき,\(I_n\) と \(I_{n-1}\) の関係を調べることで導出します。

公式5の証明

\[I_n=\int_{-\infty}^{\infty} x^{2n}e^{-ax^2}dx\] とする。部分積分すると \[ \begin{align} &I_n =\left[ -\frac{x^{2n-1}}{2a} e^{-ax^2}\right]_{-\infty}^{\infty}+(2n-1) \int_{-\infty}^{\infty} \frac{x^{2n-2}}{2a}e^{-ax^2}dx
\\ &=\frac{2n-1}{2a}I_{n-1}
\\ &=\frac{(2n-1)\cdot(2n-3)\cdot \cdots \cdot 2 \cdot 1}{(2a)\cdot(2a)\cdot \cdots \cdot (2a)}I_0
\\ &=\frac{(2n-1)!!}{(2a)^n} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2}dx
\\ &=\frac{(2n-1)!!}{(2a)^n}\sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{align}\] よって公式5を得る。

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