【よくわかる】n 次元空間における球とその体積の求め方

この記事では \(n\) 次元空間における球 \[q_1^2+q_2^2+ \cdots +q_n^2 = R^2\] と \(n\) 次元球の体積 \[
V_n (R) =\frac{2\pi ^\frac{n}{2}}{n \Gamma (\frac{n}{2})} R^n
\] の導出についてまとめます。

目次

問題

問題

一般化座標 $q_1,q_2,\cdots ,q_n$ による $n$ 次元空間において,球の方程式を \[
q_1^2+q_2^2+ \cdots +q_n^2 = R^2
\] と定義する。$R$ は半径である。

(1) $n$ 次元における球の体積は \[\begin{align}
V_n (R) &= \int_{ \sqrt{ q_1^2+q_2^2+ \cdots q_n^2 } \leq R} dq_1 dq_2 \cdots dq_n \\
&=\frac{2\pi ^\frac{n}{2}}{n \Gamma (\frac{n}{2})} R^n \tag{*}
\end{align}\] である。ここで \(\displaystyle \Gamma \left(\frac{n}{2} \right) \) はガンマ関数を表す。$n=2,3$ を代入し,結果がそれぞれ2次元平面における円の面積,3次元における球の体積と一致することを確かめよ。

(2) 積分\[
J_n= \int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty} \cdots \int_{-\infty}^{\infty} e^{-(q^2_1+q^2_2+ \cdots +q^2_n)} dq_1 dq_2 \cdots dq_n
\] を以下の2通りの方法で計算することで (*) を導け。

① \(q_1,q_2,\cdots ,q_n\) は互いに独立であることとガウス積分を用いる。

② 体積を位置変数 \(r\) で微分すると表面積となることを用いる。

高校数学までは円の方程式 \(x^2+y^2=R^2\) や球の方程式 \( x^2+y^2+z^2=R^2\) を使い,数学的に式で表してきました(\(R\) は半径)。

ここで,これを一般化座標 $q_1,q_2,\cdots$ を用いて $n$ 次元に拡張した \[
q_1^2+q_2^2+ \cdots +q_n^2 = R^2
\] は $n$ 次元球といい1,統計力学の計算で使われます。以下ではこの $n$ 次元球の体積について考えてみましょう。

解答

(1) の考え方

試しにこの式に \(n=2,3\) を代入してみましょう。尚,ガンマ関数は \[
\Gamma (z)=\int_{0}^{\infty}e^{-z} t^{z-1}dt
\] であることに注意します。

【解答】
$n=2 $ のときガンマ関数の性質より \(\Gamma (1)=1\) であることに注意すると
\[ V_2 (R) =\frac{2\pi ^\frac{2}{2}}{2 \Gamma (\frac{2}{2})} R^2 = \pi R^2\] となり \(q_1 q_2\) 平面における半径 \(R\) の円の面積に一致することがわかる。

$n=3 $ のときガンマ関数の性質より \[ \Gamma \left(\frac{1}{2}+1 \right)=\Gamma \left(\frac{1}{2} \right)=\sqrt{\pi}\] であることを用いると\[ V_3 (R) =\frac{2\pi ^\frac{3}{2}}{3 \Gamma (\frac{3}{2})} R^3 =\frac{4}{3} \pi R^3 \] となり \(q_1 q_2 q_3\) 空間における半径 \(R\) の球の体積と一致することがわかる。

これより \(V_n(R)\) の式は具体的な \(n\) を計算しても私達が知っている式と一致することがわかります。

(2) の考え方

導出においては非常に天下り的ですが \[ J_n= \int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty} \cdots \int_{-\infty}^{\infty} e^{-(q^2_1+q^2_2+ \cdots +q^2_n)} dq_1 dq_2 \cdots dq_n \] という積分を2通りの方法で計算して求めます。①では積分の形こそ煩雑ですが,これらはすべて独立しているので,結局計算すべき1個のガウス積分だけで良いことがわかりますね。

【①の解答】
まず \[
J_n= \int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty} \cdots \int_{-\infty}^{\infty} e^{-(q^2_1+q^2_2+ \cdots +q^2_n)} dq_1 dq_2 \cdots dq_n
\] について\(q_1,q_2, \cdots ,q_n\) は互いに独立であるので,\[
J_n= \left(\int_{-\infty}^{\infty} e^{-q^2_1} dq_1 \right)^n =\pi^{\frac{n}{2}}
\] とまとめます。ここで,ガウス積分の公式 \[ \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^2} dx = \sqrt{\frac{\pi}{a}}\] を用いた。

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また,半径 \(r\) の \(n\) 次元球の体積を \(V_n (r)\) とすると,\(V_n (r)\) は \(r^n\) に比例するので\(A_n\) を比例定数として \(V_n (r)=A_n r^n\) とおけます。これから $J_n$ を計算し,$A_n$ について解くことが②の指針になります。

【②の解答】
半径 \(r\) の \(n\) 次元球の体積を \(V_n (r)\) とすると,\(V_n (r)\) は \(r^n\) に比例するので\(A_n\) を比例定数として \(V_n (r)=A_n r^n\) とおける。

また,\(n\) 次元球の表面積 \(S_n\) は \(V_n\) を \(r\) で微分すると得られる。これより,面積と表面積の関係式 \[ S_n (r) =\frac{dV_n (r)}{dr} =nA_n r^{n-1}\] を得る。

次に \(S_n (r) = nA_n r^{n-1}\) に微小な厚さ \(dr\) をかけた微小な球体積 \(nA_n r^{n-1}dr\) は \(J_n\) の\(n\) 次元球の体積要素 \(dq_1 dq_2 \cdots dq_n\) に等しいことを用いて \(J_n\) の積分変数を \(r\) に置換する。すなわち \[nA_n r^{n-1}dr=dq_1 dq_2 \cdots dq_n\] である。このとき,\(J_n\) の積分範囲は \[q_i:-\infty \to \infty \; (i=1,2,\cdots) \] であった(=一般化座標について全範囲を積分する)ので,これから,半径 \(r\) の積分範囲についても \[r:0 \to \infty\] となる。

また,半径 \(r\) の \(n\) 次元球の式は \[
q^2_1+q^2_2+ \cdots +q^2_n = r^2 (0<r \leq R)
\] と表せたので,これより \(J_n\) は \[
\begin{align} J_n &= \int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty} \cdots \int_{-\infty}^{\infty} e^{-(q^2_1+q^2_2+ \cdots +q^2_n)} dq_1 dq_2 \cdots dq_n \\
&= \int_0^{\infty}e^{-r^2} n A_n r^{n-1} dr \\
&= n A_n \int_0^{\infty}e^{-t} t^{\frac{n-1}{2}} \frac{1}{2} t^{-\frac{1}{2}} dt \quad (t=r^2) \\
&= \frac{nA_n}{2} \Gamma \left(\frac{n}{2} \right) \end{align}
\] と計算出来る。

以上より \[
A_n \frac{nA_n}{2} \Gamma \left(\frac{n}{2} \right)=\pi^{\frac{n}{2}}
\] であるので \(A_n\) について解くと \[
A_n=\frac{2\pi ^\frac{n}{2}}{n \Gamma (\frac{n}{2})}
\] を得る。ここで \(V_n(R)=A_n R^n\) であるのでこれに代入して \[
V_n (R) =\frac{2\pi ^\frac{n}{2}}{n \Gamma (\frac{n}{2})} R^n
\] がわかる。

\(n\) 次元の球の使用例

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  1. この定義に基づくと \(n=1\) すなわち1次元の球は \(q_1^2=R^2\) となり,2点 \((-q_1,q_1)\) の内部の直線であることがわかります ↩︎
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