変数分離法を使って偏微分方程式の1つである波動方程式 \[ \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \quad (0<x<\pi ,t>0)\] を解く方法を紹介します。
- 偏微分方程式の解法の1つである変数分離法
- 変数分離法の具体的な方法
- 波動方程式の解き方
変数分離法
2変数 \(u(x,t)\) に対し,\[u(x,t)=X(x)T(t)\] のように,2つの1変数関数の積に分けて偏微分方程式を解く方法を変数分離法という
2変数の偏微分方程式に対し \[u(x,t)=X(x)T(t)\] の形に書けると仮定して偏微分方程式を解く,という1つの典型的な解法があります。
解ける偏微分方程式は限られている
通常,偏微分方程式で具体的に解けるものはそう多くはありません。
2つの変数で微分して条件を満たす関数はかなり条件が厳しそう
こうした偏微分方程式を解く際に解法の1つとして,変数分離する,すなわち \[u(x,t)=X(x)T(t)\] の形に書けると仮定するという操作があります。
解を1変数の積で与えられると仮定し,色々操作した結果,たまたま解けた(便宜上の表現)というものであり,一部の偏微分方程式は変数分離法で具体的に解くことができます。
- 波動方程式
- 熱伝導方程式(拡散方程式)
- ポアソン方程式 …など
例題(波動方程式)
変数分離法を使った例題として次の問題を考えます。
偏微分方程式 \[ \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \quad (0<x<\pi ,t>0)\] を解きなさい。ただし,境界条件と初期条件は以下の通りで,\(c\) は正の定数である。
境界条件:\[u(0,t)=u(\pi,t)=0 \quad (t>0)\] 初期条件:\[u(x,0)=3 \sin 2x, \; u_t (x,0)=\sin 5x \quad (0<x<\pi)\]
この式は波動方程式と呼ばれている偏微分方程式の一つで,境界条件(波の端点での変位)と初期条件を指定してあげると,具体的な \(u(x,t)\) の関数がわかるというものです。
この方程式を解き,\(u(x,t)\) を求めることによって波の運動の様子を調べてみましょう。
例題の解答
\(u(x,t)=X(x)T(t)\) と書けると仮定する。これを与えられた方程式に代入すると \[\frac{1}{c^2}X(x)\frac{\partial^2 T(t)}{\partial t^2}=T(t) \frac{\partial^2 X(x)}{\partial x^2}\] すなわち \[\frac{1}{c^2}X(x)T^{\prime \prime}(t)=T(t)X^{\prime \prime}(x)\]これを辺々 \(X(x)T(t)\) で割ると \[\frac{T^{\prime \prime}(t)}{c^2 T(t)}=\frac{X^{\prime \prime}(x)}{X(x)}\] となる。
変数分離法では,まず,\(u(x,t)=X(x)T(t)\) と書けると仮定(変数分離)します。
このとき,変数分離した関数は各々の変数だけで微分できるので,微分します。
そして,右辺と左辺をそれぞれ \(x,X(x)\) だけの項,\(t,T(t)\) だけの項に分離します。
ここがポイントですが,この式が成り立つためには両辺が共に \(x,t\) に依らない定数であること,すなわち \(\displaystyle \frac{T^{\prime \prime}(t)}{c^2 T(t)},\frac{X^{\prime \prime}(x)}{X(x)}\) が定数関数でなくてはいけません。
このとき,それぞれの変数関数は1変数の常微分方程式になり,後は典型的な操作で解くことができるようになります。
- 2変数関数を1変数関数の積に分解する
- 辺ごとに変数に分離し,各々が定数であることを示す
- 1変数の常微分方程式に持ち込む
\[\frac{T^{\prime \prime}(t)}{c^2 T(t)}=\frac{X^{\prime \prime}(x)}{X(x)}\] について,この両辺は定数関数であるので,この定数を \(\lambda\) とすると, \[X^{\prime \prime}(x)=\lambda X(x)\] \[T^{\prime \prime}(t)=\lambda c^2 T(t)\] となる。
まず,\(x\) に関する常微分方程式を解く。これは定数係数2階微分方程式であり, \(\lambda\) の符号によって解の関数が異なるので場合分けを行う。
(1) \(\lambda>0\) のとき
\(\lambda>0\) のとき \[X(x)=A_1 e^{\sqrt{\lambda} x}+B_1 e^{-\sqrt{\lambda} x}\] となる(\(A_1,B_1\) は定数)。
境界条件 \(X(0)=X(\pi)=0\) より,\(A_1=B_1=0\) となるが,これは \(X(x)=0\) となり,恒等的に波が振動しないことを意味するので不適。
(2) \(\lambda=0\) のとき
\(\lambda=0\) のとき \[X(x)=A_2 x+B_2\] となる(\(A_2,B_2\) は定数)。
境界条件 \(X(0)=X(\pi)=0\) より,\(A_2=B_2=0\) となるが,これは \(X(x)=0\) となり (1) と同様に恒等的に波が振動しないことになり,不適。
(3) \(\lambda<0\) のとき
\(\lambda<0\) のとき,\[X(x)=A_3 \sin \sqrt{|\lambda|}x +B_3 \cos \sqrt{|\lambda|}x\] となる(\(A_3,B_3\) は定数)。
境界条件より,\(X(0)=X(\pi)=0\) であるので,\[B_3=0, \quad A_3 \sin \sqrt{|\lambda|}\pi =0\] これより,\[\sqrt{|\lambda|}\pi=n\pi,\quad \lambda = -n^2 \quad (n=1,2,\cdots) \] (1) ~ (3) より,\[\lambda = -n^2 \quad X(x)= A_3 \sin nx\]
このようにして,具体的な \(X(x)\) を求めることが出来ます(ここでは \(X(x)\) から先に解きましたが \(T(t)\) から解いても問題はありません)。
\(\lambda \leq 0\) の場合(指数関数or直線)では波は表現できないだろうな…という感覚もあると良いと思います
具体的な \(\lambda\) を求めることが出来たら,\(T(t)\) に代入し,今度は \(t\) に関する微分方程式を解きます。
\(\lambda\) の符号が前述の議論で出ているので,やる操作はそこまで多くありません。
\(\lambda = -n^2\) を \(t\) の式に代入すると \[T^{\prime \prime}(t)=-n^2 c^2 T(t)\] となる。これは2階の常微分方程式であるので \[T(t)=C \sin nct + D \cos nct\] となる(\(C,D\) は任意定数)
以上の議論と,\(u(x,t)=X(x)T(t)\) であることから \[u(x,t)=(C \sin nct + D \cos nct) \sin nx\] となる(\(n=1,2,\cdots\))。
\(u(x,t)\) は様々な \(n\) に対する解があるが,重ね合わせの原理によりすべての \(n\) の場合について足し合わせたものも解になる。すなわち\[u(x,t)= \sum_{n=1}^{\infty} (C_n \sin nct + D_n \cos nct) \sin nx\] これより \[u(x,0)=\sum_{n=1}^{\infty} C_n \sin nx\] \[u_t(x,0)=\sum_{n=1}^{\infty} nc D_n \sin nx\]初期条件が成り立つとき\[C_n=\begin{cases}3 &(n=2)\\ 0 &(n \neq 2) \end{cases},\quad D_n=\begin{cases}\frac{1}{5c} &(n=5)\\ 0 &(n \neq 5) \end{cases}\] であり,従って,求める解は \[u(x,t)=3 \cos 2ct \sin 2x +\frac{1}{5c}\sin 5ct \sin 5x\] となる。
コメント