よくわかる無限に深い井戸型ポテンシャルの束縛問題とその解き方

量子力学の典型的な問題である,無限に深い井戸型ポテンシャル問題についてその解き方をまとめます。

目次

問題

無限に深い井戸型ポテンシャルとは,次のような設定のもとで粒子がどのような振る舞いをするかについて調べる問題です。

問題

質量 $m$ の時間依存しない粒子の状態を考える。ここで,粒子のポテンシャルは $a$ を正の定数として \[V(x)= \begin{cases} \infty & (x<0) \\ 0 & (0 \leq x \leq a) \\ \infty & (a<x) \end{cases}\] で与えられる。以下の問に答えよ。

(1) $0\leq x \leq a$ におけるシュレディンガー方程式を書き下せ。波動関数は $\varphi (x)$,エネルギー固有値は $E$ とする。

(2) (1) を適切な境界条件のもとで解け。規格化は行わなくて良い。

(3) 規格化した $\varphi_n (x)$ に対し,粒子の確率密度 \(|\varphi (x)|^2\)を $n=1,2,3$ の場合について図示せよ。

(4) 粒子のエネルギー固有値を求めよ。

ポテンシャルが無限に高い,すなわち \(V(x)= \infty\) のところでは粒子は2つの壁の外に出ることができない状態を考えます。

解答

(1) の考え方

時間依存しないシュレディンガー方程式は \[
\left[ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} +V(x) \right] \varphi (x)=E \varphi (x)
\] であるので,これについて $V(x)=0$ とすれば良いですね。この方程式の導出方法は簡単に以下の記事にまとめていますのでよろしければご覧ください。

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【解答】
$0\leq x \leq a$ におけるシュレディンガー方程式は \[
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\varphi (x)=E \varphi (x)
\] となる。

(2) の考え方

(1) において見やすくするために $\displaystyle E=\frac{\hbar^2 k^2}{2m},$ すなわち $\displaystyle k=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}$ とおくと元の式は \[\frac{d^2}{dx^2} \varphi (x)=-k^2 \varphi (x)\] となり,これは典型的な調和振動子の運動方程式であり,簡単に解くことが出来ます。微分方程式の解き方については以下の記事も参照してください。

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量子力学における束縛問題は適切な境界条件を与えることによって決定されますが,本問における境界条件は \[\varphi (0)= \varphi (-a)=0\] としてあげると見通しが良いでしょう。

【解答】
$\displaystyle E=\frac{\hbar^2 k^2}{2m},$ すなわち $\displaystyle k=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}$ とおくと (1) の式は \[\frac{d^2}{dx^2} \varphi (x)=-k^2 \varphi (x)\] となる。これより,一般解は \(A,B \) を任意の定数として \[\varphi (x) =A \sin kx +B \cos kx\] がわかる。いま,境界条件 $\varphi (0)= \varphi (-a)=0$ を考えると\[B=0, \; A \sin ka=0 \] すなわち \[ ka=n\pi \quad (n=1,2,\cdots)\] を得られ,これより波動関数は \[\varphi_n (x) =A \sin \frac{n \pi}{a}x \quad (n=1,2,\cdots)\] と求まる。

(3) の考え方

関数の規格化を行います。関数の規格化とは,全範囲で確率密度関数を積分したときに1になるように係数を設定することであり,本問においては粒子が存在する範囲について \[
\int_{0}^{a} |\varphi_n (x)|^2 dx =1
\] を満たすように係数 $A$ を求めれば良いことになります。

【解答】
波動関数を規格化し,係数 \(A\) を求めると \[ \begin{align}
&\int_{0}^{a} |\varphi_n (x)|^2 dx =\int_{0}^{a} \left|A \sin \frac{n \pi}{a}x \right|^2 dx \\
&=|A|^2 \int_{0}^{a} \sin^2 \frac{n \pi}{a}x \; dx \\
&=\frac{|A|^2}{2}\int_{0}^{a} \left(1- \cos \frac{2n \pi}{a}x \right) dx \\
&=\frac{|A|^2}{2}\left(a- \int_{0}^{a} \cos \frac{2n \pi}{a}x \right) dx \\
&=\frac{1}{2}|A|^2 a=1
\end{align} \] よって \[A=\sqrt{\frac{2}{a}}\] これより,井戸型ポテンシャルの具体的な波動関数は \[\varphi_n (x)=\sqrt{\frac{2}{a}} \sin \frac{n \pi}{a}x \quad (n=1,2,\cdots)\] となる。これから,確率密度関数 $|\varphi_n (x)|^2$ について $n=1,2,3$ の場合を図示すると次のようになる。

弾性衝突を繰り返す古典力学とは違い,量子力学において粒子は上の図のように等間隔に分布していくことがわかります。

(4) の考え方

先ほど自らおいた $k$ を戻すと,エネルギー固有値 $E_n$ を求めることが出来ます。

【解答】
\(ka=n\pi\) および \(\displaystyle E=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}\) から \(k\) を消去すると粒子のエネルギー \[E_n=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2}n^2\] を得る。

このように,エネルギーが連続的にならず,$n$ によって飛び飛びの値を取ることも古典物理学との大きな違いといえますね。

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