量子力学の典型的な問題である,無限に深い井戸型ポテンシャル問題についてその解き方をまとめます。
無限に深い井戸型ポテンシャル
無限に深い井戸型ポテンシャルとは,次のような設定のもとで粒子がどのような振る舞いをするかについて調べる問題です。
- 粒子の質量は \(m\)
- 時間に依存しない状態(定常状態)を考える
- 粒子のポテンシャルは \[V(x)= \begin{cases} \infty & (x<0) \\ 0 & (0<x<a) \\ \infty & (a<x) \end{cases}\] で与えられる(\(a\) は正の定数)
ポテンシャルが無限に高い,すなわち \(V(x)= \infty\) のところでは粒子は2つの壁の外に出ることができない状態を考えます。この設定で時間依存しないシュレディンガー方程式 \[\left[ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} +V(x) \right] \varphi (x)=E \varphi (x)\] を解くことによって
- 粒子の波動関数 \(\varphi (x)\)
- 粒子の確率密度 \(|\varphi (x)|^2\)
- 粒子のエネルギー \(E\)
を調べることが本問における目標です。
井戸の内側の波動関数を求める
まず井戸の外側,すなわち \(x<0,\; a<x\) の範囲では粒子は存在しないので,従ってこの範囲では \(\varphi (x)=0 \) になります。一方,\(0<x<a \) のときシュレディンガー方程式は \(V(x)=0\) より\[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\varphi (x)=E \varphi (x)\] となります。見やすくするために $\displaystyle E=\frac{\hbar^2 k^2}{2m},$ すなわち $\displaystyle k=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}$ とおくと元の式は \[\frac{d^2}{dx^2} \varphi (x)=-k^2 \varphi (x)\] となり,これは典型的な調和振動子の運動方程式であり,簡単に解くことが出来ます。実際に,この式の一般解は \(A,B \) を任意の定数として \[\varphi (x) =A \sin kx +B \cos kx\] で書くことができます。微分方程式の解き方については以下の記事も参照してください。
境界条件を考える
波動関数 \(\varphi (x)\) の一般解が求まったので,境界条件から具体的に係数 \(A,B\) を求めてみましょう。量子力学における束縛問題は適切な境界条件を与えることによって決定されますが,本問における境界条件は \[\varphi (0)= \varphi (-a)=0\] としてあげると見通しが良いでしょう。実際にこの条件から \[B=0, \; A \sin ka=0 \] すなわち \[ ka=n\pi \quad (n=1,2,\cdots)\] が決定し,これより波動関数は \[\varphi_n (x) =A \sin \frac{n \pi}{a}x \quad (n=1,2,\cdots)\] と求まります。
関数を規格化する
次に波動関数を規格化し,係数 \(A\) を具体的に求めます。係数 $A$ は規格化することによって求めることが出来ます。\[ \begin{align}
&\int_{0}^{a} |\varphi_n (x)|^2 dx =\int_{0}^{a} \left|A \sin \frac{n \pi}{a}x \right|^2 dx \\
&=|A|^2 \int_{0}^{a} \sin^2 \frac{n \pi}{a}x \; dx \\
&=\frac{|A|^2}{2}\int_{0}^{a} \left(1- \cos \frac{2n \pi}{a}x \right) dx \\
&=\frac{|A|^2}{2}\left(a- \int_{0}^{a} \cos \frac{2n \pi}{a}x \right) dx \\
&=\frac{1}{2}|A|^2 a=1
\end{align} \] よって \[A=\sqrt{\frac{2}{a}}\] これより,井戸型ポテンシャルの具体的な波動関数は
\[\varphi_n (x)=\sqrt{\frac{2}{a}} \sin \frac{n \pi}{a}x \quad (n=1,2,\cdots)\]
と求めることが出来ました。
確率分布はどのようになるのか
波動関数は求まりましたが,実際にどのような振る舞いをするのでしょうか。例として具体的に \(n=1,2,3\) で確率密度関数 \(|\varphi_n (x)|^2\) を求めグラフにプロットしてみます。
弾性衝突を繰り返す古典力学とは違い,量子力学において粒子は上の図のように等間隔に分布していくことがわかります。
粒子のエネルギーを求める
波動関数が求まったので粒子のエネルギー \(E_n\) も求めてみましょう。\(ka=n\pi\) および \(\displaystyle E=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}\) から自分で置いた文字 \(k\) を消去すると粒子のエネルギー \[E_n=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2}n^2\] を求めることが出来ます。このように,エネルギーが連続的にならず,$n$ によって飛び飛びの値を取ることも古典物理学との大きな違いといえますね。
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