この記事では,時間依存しないシュレディンガー方程式 \[ \left[-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 +V(\boldsymbol{r}) \right] \varphi (\boldsymbol{r})=E \varphi (\boldsymbol{r})\] の導出方法と粒子の確率の求め方について,主に
- 物理を一通り履修した高校生
- 量子力学を履修したての大学学部生
にわかっていただけるように,現役物理学科生がわかりやすく説明します。
シュレディンガー方程式の導出方法
シュレディンガーの方程式はおおまかに次の3つのプロセスにわけて導くことが出来ます。
3つのプロセス
- 粒子の持つ波の性質(ド・ブロイ波の理解)
- 波動方程式の理解
- ド・ブロイ波の波動方程式を知る
それぞれのプロセスについて考えてみましょう。
粒子の持つ波の性質(ド・ブロイ波の理解)
シュレディンガー方程式を導くにあたって,まずは原子物理学の復習からはじめましょう。原子物理学では,光電効果やコンプトン効果の実験結果を通して光(=波)は粒子と波の二重性の性質を示すことを学びました。
そして,まず一つ目のポイントですが,このことから逆に,理論物理学者ド・ブロイは粒子もまた波の性質を持つのではないか?と考え,粒子を波として扱うときの関係は次の式で表すことが出来ることを発見しました。
\(p\) は粒子の運動量の大きさ,\(h\) はプランク定数,\(\lambda\) は物質波の波長の長さとする。このとき \[p=\frac{h}{\lambda}\] が成り立つ
この式は「運動量 \(p\) を持つ粒子は波長 \(\lambda\) を持つ物質波として扱うことが出来る」ということを示します。
また後述しますが,量子力学において粒子の存在は常に確率で表され,この確率を表す関数はこのド・ブロイ波の波動関数によって表されます。
そして,この式と次で扱う「波動方程式」の関係を調べると原子や粒子の従うべき方程式(=これがシュレディンガー方程式の基礎になります)を示すことが出来ます。
波動方程式の導出
運動方程式の復習とその拡張
再び復習ではありますが,私達は高校物理や大学物理学の力学で運動方程式\[m\frac{d^2 \boldsymbol{r}}{dt^2}=\boldsymbol{F}\]を用いて様々な物体の運動を決定してきました。
運動方程式は言い変えると「物体の運動が従うべき方程式」であり,それはすなわち,運動方程式を解けば対象の物体の運動を説明することが出来るということでもあります。
他の現象も簡単な式で表すことが出来るのか?
ここまでは「物体」の従う関係について考えてきましたが,現象を式で表すという行為は物体以外のものにも拡張することが出来ます。
その一例としてここでは高校物理で習った「波」と呼ばれる現象がどういう式で説明することが出来るのかについて考えてみましょう。
何故この式によって波の現象が説明されるのか(すなわち,どのようにして導かれるのか)についてはまた別の機会で改めてまとめますが,ここでは端的に答えだけ示してしまうと,特に1次元の系において波の運動は次の方程式によって説明されます。
\(\boldsymbol{r},t\) はそれぞれ波の位置と時刻,\(v\) は波の進行速度,\(\psi\) は波の変位を表す \(\boldsymbol{r},t\) の2変数関数,すなわち \(\psi(\boldsymbol{r},t)\)とする。このとき \[\nabla^2 \psi(\boldsymbol{r},t)=\frac{1}{v^2} \frac{\partial^2 }{\partial t^2} \psi(\boldsymbol{r},t)\] を波動方程式といい,波の運動は波動方程式に従う
ここで,$\partial$ は偏微分の演算子であり,$\nabla^2$ は3次元直交座標系で \[\nabla^2 =\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\] を表します。
波動方程式自体は一般に「変数分離法」と呼ばれる有名な方法で解くことが出来ますが,具体的な解き方は長くなるので以下の記事に託します。
波動方程式とド・ブロイ波の関係
準備を半ば強引に整えたところで,実際に物質波の従う波動方程式を考えてみましょう。先程の波動方程式は適当な境界条件を与えると,その解は時間に依存する関数と位置に依存する関数の積 \[\psi_n (\boldsymbol{r},t)=A_n \cos (\omega_n t +\phi_n) \varphi (\boldsymbol{r}) \quad (n=1,2,\cdots)\] の形で解くことが出来ます。
この式では \(\cos (\omega_n t +\phi_n)\) の部分が時間に依存する部分,\(\phi (x)\) の部分が位置に依存する部分になっています
簡単のために \(A_n=1, \; \phi_n=0\) とし,添字 \(n\) を省略すると \[\psi (\boldsymbol{r},t)=\varphi (\boldsymbol{r}) \cos \omega t\] と書くことが出来ます。これを波動方程式に代入すると \[\nabla^2 \varphi (\boldsymbol{r}) \cos \omega t+\frac{\omega^2}{v^2} \varphi (\boldsymbol{r}) \cos \omega t=0\] となり,\(\cos \omega t\) は常に0ではないので,これが成り立つためには
\[\nabla^2 \varphi (\boldsymbol{r})+\frac{\omega^2}{v^2} \varphi (\boldsymbol{r}) =0\]
が成り立たなくてはなりません。ここで,波の速度は振動数 \(\nu\) を用いて \(v=\nu \lambda\) であること,および \(\omega =2\pi \nu\) であることから \[\frac{\omega^2}{v^2}=\frac{4 \pi^2 \nu^2}{v^2}=\frac{4\pi^2}{\lambda^2}\] これより上の式は \[\nabla^2 \varphi (\boldsymbol{r})+\frac{4\pi^2}{\lambda^2} \psi (\boldsymbol{r}) =0\] と出来ます。ここで \(\lambda\) が出てきたので,この式と先程紹介したド・ブロイ波の関係 \(p=h/\lambda\) を関連付けることが出来ればゴール一歩手前です。
後のことを考えてここでは粒子のエネルギー \(E\) とポテンシャルエネルギー \(V(\boldsymbol{r})\) とも関連付けて計算を進めましょう。粒子のエネルギー \(E\) は運動エネルギーを運動量で表した \(p^2/2m\) とポテンシャル \(V(\boldsymbol{r})\) の和,すなわち
\[E=\frac{p^2}{2m}+V(\boldsymbol{r})\]
によって表すことが出来ます。これを \(p\) について解くと \[p=\sqrt{2m(E-V(\boldsymbol{r}))}\] より \(p\) とその他のエネルギーの関係を得ることが出来たので,これをド・ブロイ波の式に代入して \(\lambda\) について解くと \[\lambda = \frac{h}{p}=\frac{h}{\sqrt{2m(E-V(\boldsymbol{r}))}}\] この \(\lambda\) を上の式に代入することにより \[\nabla^2 \varphi (\boldsymbol{r})+\frac{4\pi^2}{h^2}2m(E-V(\boldsymbol{r})) \psi (\boldsymbol{r}) =0\] ここで,\(\hbar\) を新たに \(\displaystyle \hbar=\frac{h}{2\pi}\) で置き直します。
この \(\hbar\) (エイチバー)はディラック定数と呼ばれ,量子力学では \(h\) の代わりに多く使われます
すると \[\nabla^2 \varphi (\boldsymbol{r})+\frac{2m}{\hbar^2}(E-V(\boldsymbol{r})) \varphi (\boldsymbol{r}) =0\] すなわち
\[ \left[-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2+V(\boldsymbol{r}) \right] \varphi (\boldsymbol{r})=E \varphi (\boldsymbol{r})\]
となり,質量 \(m\) の粒子の時間依存しないシュレディンガー方程式を導くことが出来ました。
言い方を変えるとシュレディンガー方程式とは「ド・ブロイ波に関する波動方程式の拡張」あるいは「粒子の波動関数に関する波動方程式」であり,様々な設定のシュレディンガー方程式を解くことによって,ド・ブロイ波の波動関数 \(\varphi (\boldsymbol{r})\) を求める,ということが基本の量子力学の流れとなります。
ここでは簡単のために時間依存しないシュレディンガーの方程式の導出方法を紹介しました
時間依存するシュレディンガー方程式についてはまた改めて記事にしたいと思っています
確率密度の求め方
シュレディンガー方程式を導出することが出来たので,この方程式から \(\varphi (x)\) を解いて粒子の確率を求める手筋を最後に簡単に紹介します。
量子力学においては,与えられたポテンシャル \(V(x)\) と境界条件によって求めた \(\varphi (x)\) を使って,粒子の存在確率を以下で与えられる式を用いて求めます。
粒子が \([x,x+dx]\) にいる存在確率は \(|\varphi (x)|^2 dx\) に比例する。複素共役な関数 \(\varphi^* (x)\) を使うと \[|\varphi (x)|^2 dx=\varphi (x)\varphi^* (x)dx\] とも書ける
ここで,定義内に粒子が存在する確率は1であるのでこれを全区間で積分したときに
\[\int_{-\infty}^{\infty}\varphi (x)\varphi^* (x)dx=1\]
が満たされていなくてはなりません。これを規格化条件といいます。こうして規格化された \(\varphi (x)\varphi^* (x)\) は微小区間の粒子の存在確率を与えるので
\[\rho (x)=|\varphi (x)|^2=\varphi (x)\varphi^* (x)\]
とし,この \(\rho (x)\) を確率密度関数と呼び,この関数から粒子の存在確率を知ることが出来ます。
まとめ
以上をまとめますと
- ド・ブロイ波の波動方程式を求めることでシュレディンガー方程式を導出出来る
- 様々な条件のもとでシュレディンガー方程式を解き波動関数 \(\varphi (x)\) を求める
- \(\varphi (x) \varphi^* (x)\) を全空間で積分し,規格化する
- 確率密度関数 \(\rho (x)\) で粒子の存在確率を評価する
という操作によって簡単にではありますが量子力学の基本操作を理解することが出来ます。長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。
シュレディンガー方程式の例題はこちらから
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