運動方程式の書き方とメリット・微分方程式の形で表す方法

高校物理や大学物理で使われる運動方程式 \[m\frac{d^2 \overrightarrow{r}}{dt^2}=\overrightarrow{F}\] と運動方程式の使い方を微積分を用いつつ,実際に例題を用いて紹介します。

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目次

運動方程式とは

運動方程式について説明する前に,まずは式の形と定義から抑えましょう。

運動方程式(その1)

物体の質量 \(m\),加速度 \(\overrightarrow{a}\),質量にかかる力を \(\overrightarrow{F}\) とすると \[m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}\] が成り立つ。これを運動方程式という。

まずは背景からこの式を簡単に説明します。昔(17世紀後半くらい),ニュートンは実験で物体にある力 \(\overrightarrow{F}\) を加えると,物体はその力の向きに,力に比例した加速度が生じることを発見しました。

すなわち,物体の運動を数式で表すと \[\overrightarrow{a}=\frac{1}{m}\overrightarrow{F}\] となることを発見しました。

ここで \(\displaystyle \frac{1}{m}\) は比例定数であり,\(m\) はこの式からその物体の質量と定義されます。

これより,よく見慣れた式(見慣れてない方も今後勝手に慣れるでしょう)

\[m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}\]

となり,これを運動方程式といいます。

ここで,この式は実験と観察によって成り立つことが示される物理の根幹となる式であることに注意しましょう。

つまり,この運動方程式自体は他の式から導かれるものではなく,運用上は暗記しておかなければならない根本の式である,ということです。

また,物理学の様々な法則(エネルギー保存則,運動量保存則,角運動量保存則 etc)はすべてこの式から導出することが出来ます。

ベクトル表記を使わずに書くとどうなるのか(参考)

上の表記ではベクトル表記を使っていますが,より丁寧に,ベクトルを使わずに書くとどうなるでしょう。

まず,加速度のベクトル \(\overrightarrow{a}\) は3次元では \[\overrightarrow{a}=[a_x,a_y,a_z]\] と成分にわけて書くことが出来ます。また,力のベクトルも同様にして \[\overrightarrow{F}=[F_x,F_y,F_z]\] と書くことが出来るので,ベクトルを使わずに \(x,y,z\) 各方向の運動方程式を書くと \[\begin{align}&ma_x=F_x \\ &ma_x=F_x \\ &ma_x=F_x\end{align}\] まとめなおすと \[m \left[ \begin{array}{c}a_x \\ a_y \\ a_z \end{array} \right] = \left[ \begin{array}{c}F_x \\ F_y \\ F_z \end{array} \right]\] と書くことが出来ます。

微分表記を使った運動方程式

ここまでは加速度を \(\overrightarrow{a}\) として書いてきました。

あんとら

高校物理の教科書ではこの書き方が一般的なはず

ここで,一段階ステップアップしてより便利な形に書き換えてみましょう。具体的には,微分演算子を使って運動方程式を書き改めます。

まず,一般的に位置,速度,加速度には関係式

\[v=\frac{dx}{dt},\quad a=\frac{dv}{dt}=\frac{d^2 x}{dt^2}\]

が成り立ちます。これを3次元に拡張させると \(y,z\) 方向の関係は

\[a_y=\frac{dv_y}{dt}=\frac{d^2 y}{dt^2},\quad a_z=\frac{dv_z}{dt}=\frac{d^2 z}{dt^2}\]

と書くことが出来ますね。しかし,このように毎回書いていては面倒なので,変位を位置ベクトル \(\overrightarrow{r}=[x,y,z]\) で表し,速度 \(\overrightarrow{v}=[v_x,v_y,v_z]\),加速度 \(\overrightarrow{a}=[a_x,a_y,a_z]\) をそれぞれ \[\overrightarrow{a}=\frac{d}{dt}\overrightarrow{v}=\frac{d^2}{dt^2}\overrightarrow{r}\] とまとめることで運動方程式は次のように書くことが出来ます。

運動方程式(その2)

微分表記を使って運動方程式を書き表すと \[m\frac{d^2 \overrightarrow{r}}{dt^2}=\overrightarrow{F}\] と書ける

力がつり合っているときの運動方程式

力がつり合っているときも運動方程式は成り立ちます。このとき,物体の速度は変化しない(慣性の法則)ので,\(|\overrightarrow{a}|=0\) になります。

これより運動方程式は

\[\overrightarrow{0}=\overrightarrow{F}\]

となり,これより,力がつり合っているとき,各方向における力の成分和は常に0になることがわかります。

(参考)運動方程式が使えるとおいしいこと

運動方程式は物理の根幹の式になるのですが,この式がわかると何がおいしい(=良い)のでしょうか。改めて運動方程式 \[m\frac{d^2 \overrightarrow{r}}{dt^2}=\overrightarrow{F}\] を見直してみましょう。この式は

  • 物体の質量
  • 物体の加速度の向きと大きさ
  • 物体の速度の向きと大きさ
  • 物体の位置の方向と大きさ(単純に位置)

という情報を含んでいます。

物理では物体の運動を記述することを目的とするのですが,その際に時刻 \(t\) における変位,速度,加速度が1つの式でわかる(しかも物体にかかっている力を把握するだけで)ということはとても便利かつ凄いことです。

あんとら

積分を2回するだけで速度と位置が簡単にわかるのはすごい

簡単にいうと

  • 物体の位置情報のすべてが入っている(=微積分するだけで位置,速度,加速度の全部がわかる)
  • 比例関係で示されるので式の形が簡潔

あたりが運動方程式のおいしさ,ということが出来ます(もっとおいしいことはあるのでしょうがここでは割愛します)。

運動方程式の使い方

運動方程式には使い方(物理的な運動を解析するのに必要な手続き)があります。この必要な手続きについて以下にステップを示します。

STEP1:扱う物体にかかっている力をすべて把握(図示)する

まず,扱う物体にかかっているすべての力を書き出します。書き出す際に主に出てくる力は

  • 重力
  • 物体の垂直抗力
  • ばねの力や張力,空気抵抗 etc

あたりがあります。

STEP2:各方向ごとに力の成分の和を計算する

\(x\) 軸方向,\(y\) 軸方向ごとにこれらの成分を足し合わせ,\(\overrightarrow{F}\) を求めます。

STEP3:運動方程式に代入し,加速度を求める

運動方程式の \(\overrightarrow{F}\) にstep2で求めたものを代入し,加速度を求めます。

加速度を求めたら必要に応じて速度や位置を積分して求めます。

例題

運動方程式を微分演算子を使って書くと,運動方程式が単なる微分方程式の問題に帰着します。以下では,運動方程式を微分方程式の形に直し,解く方法を簡単な例題を使って紹介しましょう。

例題

質量 \(m\) の物体が原点から鉛直方向に自由落下させるとき,以下の問に答えよ。ただし,時刻 \(t=0\) の位置を原点とし,運動方向を \(x\) 軸正方向に取るものとする。

(1) 物体の運動方程式を書きなさい。

(2) 時刻 \(t\) における物体の加速度 \(a\) を求めなさい。

(3) 時刻 \(t\) における物体の速度 \(v\) を求めなさい。

(4) 時刻 \(t\) における物体の位置 \(x\) を求めなさい。

解答

(1) 物体にかかっている力の大きさは \(mg\),向きは \(x\) 軸正方向であるので,運動方程式は \[ma_x=mg\]

(2) (1) より \(a_x=g\)。これより,物体は \(x\) 軸正方向に大きさ \(g\) で等加速度運動をすることがわかる。

(3) 加速度は速度を時間微分したもの,すなわち \(\displaystyle a=\frac{dv}{dt}\) であるので,\[\frac{dv}{dt}=g\] これを時刻 \(t\) について積分すると \[v=gt+C_0\] ただし,\(C_0\) は定数である。ここで,時刻 \(t=0\) において速度 \(v=0\) であるので,上式に \((v,t)=(0,0)\) を代入し \(C_0\) を求めると \(C_0=0\) となる。よって,求める答えは \[v=gt\]

(4) 速度は位置を時間微分したもの,すなわち \(\displaystyle v=\frac{dx}{dt}\) であるので \[\frac{dx}{dt}=gt\] これを時刻 \(t\) について積分すると \[x=\frac{1}{2}gt^2+C_1\] ただし,\(C_1\) は定数である。時刻 \(t=0\) において物体は原点にいる,すなわち \(x(0)=0\) であるので,\(C_1\) を求めると \(C_1=0\) を得る。これより,求める答えは \[x=\frac{1}{2}gt^2\]

あんとら

自由落下の基本的な式に一致することがわかります

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