熱伝導方程式 \[\frac{\partial u}{\partial t}= k \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \quad (0<x<\pi , \; t>0 )\] を変数分離法を使って解く方法を,実際に例題を使って紹介します。
熱伝導方程式の例
次の熱伝導方程式を解きなさい。\[\frac{\partial u}{\partial t}= k \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \quad (0<x<\pi , \; t>0 )\] ただし,初期条件と境界条件はそれぞれ次の通りである。また,\(k\) は正の定数である。
境界条件:\[u_x (0,t)= u_x (\pi,t)=0 \quad (t>0)\]
初期条件:\[u(x,0)=5 \cos x + 2 \cos 5x \quad (0<x<\pi)\]
熱伝導方程式は,時刻 \(t\) 長さ \(x\) の位置における導体棒の温度を \(u(x,t)\) の2変数関数で表したときの温度変化を示す方程式です。
ここでは長さを \(\pi\) にとることで,議論を簡単にしています。
また,境界条件 \[u_x (0,t)= u_x (\pi,t)=0 \] は棒の両端において温度変化が一定となるように固定させる,という設定になっています。
初期条件が具体的な関数で与えられているものとして,この問題を解いてみましょう。
例題1の解答
熱伝導方程式は偏微分方程式の解法の1つである変数分離法を使って解くことが出来ます。
2変数 \(u(x,t)\) に対し,\[u(x,t)=X(x)T(t)\] のように,2つの1変数関数の積に分けて偏微分方程式を解く方法を変数分離法という。
\(u(x,t)=X(x)T(t)\) で書けると仮定する。これを与方程式に代入すると \[\frac{\partial }{\partial t}X(x)T(t)=k \frac{\partial^2 }{\partial x^2}X(x)T(t)\] であり,整理すると \[\frac{T”(t)}{k T(t)}=\frac{X”(x)}{X(x)}\] となる。ここで,両辺は定数関数であるので,この定数を \(\lambda\) とすると \[X”(x)=\lambda X(x)\] \[T”(t)=\lambda k T(t)\] となる。
変数を上のように分離し,各々について偏微分したものを各辺でまとめます。
すると,各々は1つの文字の常微分方程式になり,解くことが出来るようになります。
まず,\(x\) に関する常微分方程式を解く。このとき \(\lambda\) の符号によって解の関数が異なるので場合分けを行う。
(1) \(\lambda >0\) のとき
\(\lambda >0\) のとき \[X(x)=A_1 e^{\sqrt{\lambda} x}+B_1 e^{-\sqrt{\lambda} x}\] となる(\(A_1,B_1\) は定数)。初期条件より \(X(0)=0\) となるが,これは恒等的に熱が変化しないことになるので不適。
(2) \(\lambda =0\) のとき
\(\lambda =0\) のとき \[X(x)=A_2 x +B_2\] となる(\(A_2,B_2\) は定数)。微分すると \(X'(x)=A_2\) となり,初期条件より \[X'(0)=A_2=0\] がわかる(\(B_2\) は任意定数)。これより \[X(x)=B_2\] となる。
(3) \(\lambda <0\) のとき
\(\lambda <0\) のとき \[X(x)=A_3 \cos \sqrt{ |\lambda |} x + B_3 \sin \sqrt{ |\lambda |} x\] となる。微分すると \[X'(x)=\sqrt{| \lambda |}( – A_3 \sin \sqrt{ |\lambda |} x + B_3 \cos \sqrt{ |\lambda |} x)\] であり,初期条件より \[B_3=0 , \quad A_3 \sin \sqrt{ |\lambda |} \pi =0\] である。従って \[\sqrt{ |\lambda |} \pi = n \pi \quad (n=1,2,\cdots)\] すなわち \[\lambda = -n^2 \] を得る。これより \[X(x)=A_3 \cos nx \quad (n=1,2,\cdots)\] である。
以上 (1) ~ (3) より \[X(x)= B_2 + A_3 \cos nx \quad (n=1,2,\cdots)\] である。
こうして,具体的な \(X(x)\) を求めることが出来ました。
\(X(x)\) を求めることが出来たら,\(T(t)\) を求めます。\(T(t)\) は \(t\) の1階の微分方程式なので簡単に求めることが出来ます。
いま \[\lambda = -n^2 \quad (n=1,2,\cdots)\] であったので \[T”(t)=\lambda k T(t)\] に代入して \[T”(t)=-n^2 k T(t)\] である。これは変数分離形の微分方程式なので \(C\) を定数として \[T(t)=Ce^{-n^2 kt}\] となる。
\(X(x),T(t)\) の両方を求めることが出来たら,元の関数 \(u(x,t)\) に戻してあげます。
\[u(x,t) = X(x)T(t)\] に代入し,新たに定数を取り直すと \[\eqalign{ u(x,t) &= B_2 + CA_3 e^{-n^2 kt} \cos nx \\ &= C_0 + C_n e^{-n^2 kt} \cos nx }\] となる。重ね合わせの原理より \[u(x,t)= C_0 + \sum_{n=1}^{\infty}C_ne^{-n^2 kt} \cos nx\] も解となり,初期条件より \[C_0=0, \quad C_n= \begin{cases}5 &(n=1) \\ 2&(n=5) \\ 0 &(\text{other}) \end{cases}\] となる。従って,求める解は \[u(x,t)=5 e^{-kt}\cos x + 2e^{-25kt}\cos 5x \] である。
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