本記事では,統計力学の量子論的カノニカル分布を用いて常磁性体におけるキュリーの法則 \[\chi =\frac{N\mu_0^2}{k_\text{B}}\frac{1}{T} \propto \frac{1}{T}\] を導出します。
系の設定
ここでは常磁性体の系を以下のように設定します。
- $N$ 個の磁性原子から構成される単位体積($V=1$)の固体を考える
- 各磁性原子には磁気モーメント $\boldsymbol{m}$ が与えられている
- 各磁気モーメントは上向き(状態1)か下向き(状態2)のいずれかの状態を取る
- 磁場を $H$ とし,磁気モーメントの成分を $\mu_0$ とする
- 磁気モーメントの間の相互作用はないものとする
本記事では,磁化の定義について確認した後に,系の分配関数$Z_C$を求め,帯磁率について考えることを目標とします。
磁化の定義
上の設定において,状態1のエネルギーは $-\mu_0 H$,状態2のエネルギーは $\mu_0 H$ であり,また,磁気モーメントの間の相互作用はないものとして扱うので,$i$ 番目の原子が磁場 $H$ におかれたときのエネルギー $E_i$ は \[E_i=-\mu_0 H\sigma_i\] と書くことが出来ます。
ここで $\sigma_i$ はスピン変数であり,スピンが上向きのとき $\sigma_i=1$,スピンが下向きのとき $\sigma_i=-1$ と表されるものとしましょう。このように書くと,系の全エネルギー $E$ は\[E=-\mu_0 H \sum_{i=1}^{N}\sigma_i \equiv -MH\] となりますね。ここで出てきた \[M \equiv \mu_0 \sum_{i=1}^{N}\sigma_i\] は磁化と呼ばれます。この $M$ を後で計算するために,ここではカノニカル分布を用いて分配関数の計算をしてみましょう。
分配関数の計算
分配関数の計算をしましょう。1原子の分配関数 $z_C$ は \[\begin{align}
z_C &=\sum_{\sigma_i = \pm 1}e^{-\beta E_i} \\
&=e^{\beta \mu_0 H} +e^{-\beta \mu_0 H}
\end{align}\] と書けます。固体中には $N$ 個の原子があるので,全体の分配関数は $Z_C=z_C^N$,すなわち \[Z_C=(e^{\beta \mu_0 H} +e^{-\beta \mu_0 H})^N\] となります。
常磁性体のエネルギー
分配関数が求まったので,エネルギー平均値を求めてみましょう。カノニカル分布におけるエネルギー平均は
\[E=-\frac{\partial}{\partial \beta}\log Z_C\]
で求めることが出来たのでした。
これに先ほど求めた分配関数 $Z_C$ を代入すると\[\begin{align}
E &=-\frac{\partial}{\partial \beta}\log Z_C \\
&=-\frac{\partial}{\partial \beta}\log (e^{\beta \mu_0 H} +e^{-\beta \mu_0 H})^N \\
&=-\frac{N\mu_0 H(e^{\beta \mu_0 H} -e^{-\beta \mu_0 H})}{e^{\beta \mu_0 H} +e^{-\beta \mu_0 H}} \\
&=-N\mu_0 H \tanh (\beta \mu_0 H)
\end{align}\] と計算することが出来ます。これから先程の磁化の式 $E=-MH$ と比較をすることで\[
M=N\mu_0 \tanh (\beta \mu_0 H)
\]がわかります。
常磁性体の帯磁率とキュリーの法則
磁化の評価をしてみましょう。$\beta \mu_0 H \ll 1$ のとき,すなわち温度が高いとき \[\tanh (\beta \mu_0 H) \simeq \beta \mu_0 H\] と近似することが出来るので \[M \simeq \mu_0 \beta \mu_0 H =\frac{N\mu_0^2 H}{k_{\text{B}}T} \] 帯磁率 $\chi$ は,外部磁場に対する磁化の大きさの比 \[\chi =\frac{M}{H}\] で定義されるので,温度が高いとき\[
\chi =\frac{M}{H}=\frac{N\mu_0^2}{k_\text{B}}\frac{1}{T} \propto \frac{1}{T}
\] となり,帯磁率は温度の逆数に比例することがわかります。これを常磁性体に対するキュリーの法則といいます。
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