吸着問題をグランドカノニカル分布を用いて解く方法

この記事では,グランドカノニカル分布の典型的問題である吸着問題,およびそこから得られるラングミュアの吸着等温式 \[\theta =\frac{p}{\displaystyle p+k_{\text{B}}T \left(\frac{2\pi m k_{\text{B}}T}{h^2}\right)^{\frac{3}{2}} e^{-\beta \varepsilon}}\] についてまとめます。

目次

系の設定

吸着問題を考えるにあたり,次のように系を設定します。

系の設定
  • 表面上に $N_0$ 個の吸着サイトがある
  • 各サイトには最大1つの気体粒子が吸着可能
  • 1つの吸着サイトに粒子が吸着するとエネルギーは $\varepsilon$ だけ減少する
  • サイト間,粒子間の相互作用は無視できる
  • 気体は理想気体
  • 吸着状態のサイト数を $n$ とする

少々設定が多くなりましたが,特に吸着問題のような系においては表面に吸着する分子の数が大きく変化しうるため,グランドカノニカル分布を用いて考えるのが自然です。

以下,この系に対する吸着状態の粒子数の平均 $\overline{n}$ などを調べるために,まずは大分配関数を求めてみましょう。

表面吸着問題の大分配関数

グランドカノニカル分布における大分配関数 $\Xi (\mu,V,T)$ は次で与えられます。\[\Xi=\sum_{i,N}e^{-\beta (E_{i,N}-N\mu )}\] ここで

  • $E_{i,N}$ は状態 $i$,粒子数 $N$ のときの状態のエネルギー
  • $\beta =1/k_{\text{B}}T$ は逆温度( $k_{\text{B}}$ はボルツマン定数)
  • $\mu$ は化学ポテンシャル

です。

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実際に計算してみましょう。このとき,吸着粒子の数が $n$ である場合の数は,全サイト数に対する $n$ の場合の数を取れば良いので \[{}_{N_0} \text{C}_{n}=\frac{N_0 !}{n! (N_0-n)!}\] 通りあります。

そしてこの $n$ に対してエネルギーは $E_n=-n\varepsilon$,化学ポテンシャルは $n\mu$ となるので,大分配関数を計算すると\[\begin{align}
\Xi &=\sum_{i,N}e^{-\beta (E_{i,N}-N\mu )} \\
&=\sum_{n=0}^{N_0} {}_{N_0} \text{C}_{n} e^{-\beta (-n\varepsilon -n\mu)} \\
&=\{1+e^{\beta (\varepsilon +\mu)} \}^{N_0}
\end{align}\] となります。ここで,最後の行の計算は,二項定理を使いました。これより,系における大分配関数 $\Xi$ は

\[\Xi=\{1+e^{\beta (\varepsilon +\mu)} \}^{N_0}\]

となります。

粒子数の平均値

粒子数の平均値 $\overline{n}$ を求めてみましょう。ここで $\overline{n}$ は \[\overline{n}=k_{\text{B}}T \frac{\partial}{\partial \mu}\log \Xi\] で求められたのでした。

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従って先程の結果を代入して計算すると \[\begin{align} \overline{n} &=k_{\text{B}}T \frac{\partial}{\partial \mu}\log \Xi \\
&=\frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial \mu}\log \{1+e^{\beta (\varepsilon +\mu)} \}^{N_0} \\
&=\frac{N_0}{\beta} \frac{\beta e^{\beta (\varepsilon +\mu)}}{1+e^{\beta (\varepsilon +\mu)}} \\
&=\frac{N_0}{1+e^{-\beta (\varepsilon +\mu)}} \end{align}\] であることがわかります。

ラングミュアの吸着等温式

粒子数の平均値がわかったので,ここで被覆率と呼ばれる量 $\theta$ を次のように定義します。\[\theta =\frac{\overline{n}}{N_0}\] 式からも分かる通り,$\theta$ とは全サイト数における吸着分子の比率を表します。上の計算結果から \[\theta =\frac{1}{1+e^{-\beta (\varepsilon +\mu)}}\]がわかりますね。ここで,理想気体の化学ポテンシャルは \[\mu=-k_{\text{B}}T \log \left(\left(\frac{2\pi m k_{\text{B}}T}{h^2}\right)^{\frac{3}{2}}\frac{V}{N} \right)\] で与えられます。

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この式を $pV=Nk_{\text{B}}T$ を用いて $e^{-\beta \mu}$ について解くと \[e^{-\beta \mu}=\frac{k_\text{B} T}{p}\left(\frac{2\pi m k_{\text{B}}T}{h^2}\right)^{\frac{3}{2}}\] であるので,これを $\theta$ に代入して \[\begin{align}
\theta &=\frac{1}{\displaystyle 1+\frac{k_\text{B} T}{p}\left(\frac{2\pi m k_{\text{B}}T}{h^2}\right)^{\frac{3}{2}} e^{-\beta \varepsilon}} \\
&=\frac{p}{\displaystyle p+k_{\text{B}}T \left(\frac{2\pi m k_{\text{B}}T}{h^2}\right)^{\frac{3}{2}} e^{-\beta \varepsilon}}
\end{align}\] と出来ます。これをラングミュアの吸着等温式といいます。これから \[\lim_{p \to 0} \theta =0,\quad \lim_{p \to \infty} \theta =1\] であることに注意して横軸を圧力 $p$,縦軸を $\theta$ にとったグラフを図示すると次の通りになります。

これから,圧力が高ければ高くなるほど,吸着率は1に近づく,すなわち吸着サイトはどんどん埋まっていくことがわかり,これは直感とも一致します。

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