3次元箱型ポテンシャル問題の具体例とその解き方

このページでは井戸型ポテンシャル問題の応用問題として3次元箱型ポテンシャル問題の具体例とその解き方をまとめます。

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目次

箱型ポテンシャルの設定

3次元における箱型ポテンシャル問題を次のように設定しましょう。

系の設定
  • 箱の各辺の長さはそれぞれ $a,b,c$
  • 系のポテンシャルを \[V(\boldsymbol{r})=\begin{cases}0 &\quad ( 0 \leq x \leq a \; \text{and} \; 0 \leq y \leq b \; \text{and} \; 0 \leq z \leq c ) \\ \infty &\quad (\text{other})\end{cases}\] で定める。

これは3次元における自由粒子(力がまったくはたらいていない)であり,シュレディンガー方程式は $V(\boldsymbol{r})=0$ として次のように書くことが出来ます。 \[ -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \varphi (\boldsymbol{r})=E\varphi (\boldsymbol{r})\] 本問においては3次元直行座標系で考えるので \[-\frac{\hbar^2}{2m} \left( \frac{\partial^2}{\partial x^2} +\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2} \right) \varphi (x,y,z)=E \varphi (x,y,z)\] とすると良いですね。

3次元シュレディンガー方程式を変数分離法で解く

3次元のシュレディンガー方程式を解いてみましょう。これは3次元の偏微分方程式であり,定石に従って \[\varphi(x,y,z)=X(x)Y(y)Z(z) \] とする変数分離を仮定することで見通し良く解くことが出来ます。実際これをシュレディンガー方程式に代入すると \[-\frac{\hbar^2}{2m} \left( \frac{\partial^2}{\partial x^2} +\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2} \right) X(x)Y(y)Z(z)=E X(x)Y(y)Z(z)\] すなわち \[-\frac{\hbar^2}{2m} \left( \frac{X^{\prime \prime}(x)}{X(x)}+\frac{Y^{\prime \prime}(y)}{Y(y)} +\frac{Z^{\prime \prime}(z)}{Z(z)}\right) =E\] となります。ここで,右辺は定数であることから,左辺の展開したもの項もそれぞれ定数にならなければなりません。

微分方程式の具体例

具体的に,例えば $x$ に関する項はどのように書けるのか見てみましょう。先程の式は次のように書き直すことができます。\[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{X^{\prime \prime}(x)}{X(x)} =\frac{\hbar^2}{2m}\left( \frac{Y^{\prime \prime}(y)}{Y(y)} +\frac{Z^{\prime \prime}(z)}{Z(z)}\right)+E\] この式において左辺は $x$ のみの関数,右辺は $y,z$ のみの関数であるので,成り立つためには両辺が $x,y,z$ によらない定数でなくてはいけません。これをここでは $E_x$ としましょう。すると先程の式は \[-\frac{\hbar^2}{2m}X^{\prime \prime}(x) = E_x X(x)\] という単純な微分方程式に帰着します。$y,z$ についても同様に考えると \[-\frac{\hbar^2}{2m}Y^{\prime \prime}(y) = E_y Y(y), \quad -\frac{\hbar^2}{2m}Z^{\prime \prime}(z) = E_z Z(z)\] という微分方程式を得ることが出来ます。尚,ここで用いた$E_x,E_y,E_z$はその対称性から \[E_x+E_y+E_z=E\] を満たします。この関係式は後ほど系全体のエネルギー固有値を考えるときに改めて使います

微分方程式の解き方とその解

3次元シュレディンガー方程式を変数分離した微分方程式 \[-\frac{\hbar^2}{2m}X^{\prime \prime}(x) = E_x X(x)\] を解いてみましょう。これは1次元における常微分方程式として簡単に解くことが出来てその解,すなわち固有関数は \[X(x)=\begin{cases}\displaystyle \sqrt{\frac{2}{a}}\sin \left(\frac{n_x \pi}{a}x \right) &\quad (|x| \leq a) \\ 0 & \quad (|x|>a)\end{cases}\] となります(ただし $n_x$ は正の整数です)。

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またそのエネルギー固有値は \[E_{n_x}=\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_x \pi}{a}\right)^2\] と求まります。$Y(y),Z(z)$ も同様に考えることが出来て,その固有関数は \[Y(y)=\begin{cases}\displaystyle \sqrt{\frac{2}{b}}\sin \left(\frac{n_y \pi}{b}y \right) &\quad (|y| \leq b) \\ 0 & \quad (|y|>b)\end{cases}\] \[Z(z)=\begin{cases}\displaystyle \sqrt{\frac{2}{c}}\sin \left(\frac{n_z \pi}{c}z \right) &\quad (|z| \leq c) \\ 0 & \quad (|z|>c)\end{cases}\] となりますね($n_y,n_z$ もまた同様に正の整数です)。これより,変数分離した3つの関数 $X(x),Y(y),Z(z)$ が求まったので箱内の最終的な固有関数は3つの関数の積

\[\varphi (x,y,z)=\sqrt{\frac{8}{abc}}\sin \left(\frac{n_x \pi}{a}x \right) \sin \left(\frac{n_y \pi}{b}y \right) \sin \left(\frac{n_z \pi}{c}z \right)\]

となります。

あんとら

結局のところ,$x,y,z$ の各変数は互いに独立しているので,解もまた各々の微分方程式の解の積で表すことができる,ということがわかりますね

エネルギー固有値と縮退

$y,z$ 方向のエネルギー固有値も上記と同様にして \[E_{n_y}=\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_y \pi}{b}\right)^2, \quad E_{n_z}=\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_z \pi}{c}\right)^2\] と求めることが出来ます。各方向のエネルギー固有値と系全体のエネルギー固有値の間には \[E_{n_x}+E_{n_y}+E_{n_z}=E\] の関係があったので,これより,3次元箱型ポテンシャルのエネルギー固有値は

\[E=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2m} \left\{ \left(\frac{n_x }{a} \right)^2+ \left( \frac{n_y}{b}\right)^2 +\left( \frac{n_z }{c}\right)^2 \right\}\]

と求まります。

余談:エネルギー固有値の縮退とは

ここで上式を $a=b=c$ とすると \[E=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2m a^2}(n_x^2+n_y^2+n_z^2)\] を得ますが,ここで $n_x,n_y,n_z$ は任意の正の整数であるので,例えば $(n_x,n_y,n_z)=(0,1,2),(0,2,1)$ などはいずれも同じエネルギー固有値 $E$ を表します。

このように異なる $n$ 個の状態が同じエネルギー状態を持つときこれを $n$ 重に縮退するといいます。

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