2024年度名古屋大学理系数学第2問の問題と解答・解説を紹介します。
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問題
\(c\) を1より大きい実数とする。また,\(i\) を虚数単位として,\(\displaystyle \alpha = \frac{1-i}{\sqrt{2}}\) とおく。複素数 \(z\) に対して, \[\begin{align} &P(z)=z^3-3z^2+(c+2)z-c,\\ &Q(z)=-\alpha^7 z^3 + 3 \alpha^6 z^2 +(c+2)\alpha z -c \end{align}\] と定める。
(1) 方程式 \(P(z)=0\) を満たす複素数 \(z\) をすべて求め,それらを複素数平面上に図示せよ。
(2) 方程式 \(Q(z)=0\) を満たす複素数 \(z\) のうち実部が最大のものを求めよ。
(3) 複素数 \(z\) についての2つの方程式 \(P(z)=0,Q(z)=0\) が共通解 \(\beta\) を持つとする。そのときの \(c\) の値と \(\beta\) を求めよ。
(1) の解答・解説
(1) 方程式 \(P(z)=0\) を満たす複素数 \(z\) をすべて求め,それらを複素数平面上に図示せよ。
複素数の方程式に関する問題です。
\(P(z)\) の形は複雑なものではなく,因数分解をすることによって簡単に解を求めることが出来ます。
\[P(z)=(z-1)(z^2-2z+c)\] であるので,\(c>1\) に注意して解を求めると \[z=1,1 \pm \sqrt{c-1}i\] これを図示すると次の通り。
![](https://antorast.com/wp-content/uploads/2024/03/image-14.png)
(2) の解答・解説
(2) 方程式 \(Q(z)=0\) を満たす複素数 \(z\) のうち実部が最大のものを求めよ。
前問に引き続き複素数の方程式の解を考察する問題です。
\(Q(z)\) は \(P(z)\) よりも形が複雑なのでまず式を観察します。観察すると,\(\alpha\) がついているものの基本的な形は \(P(z)\) と非常によく似ています。
違うのは \(z\) の部分に \(\alpha\) がついているだけですね。
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\(\alpha\) を処理することが出来れば良い感じになりそう(希望)
ここで \(\alpha\) は \[\alpha = \cos \left(-\frac{\pi}{4} \right) +i \sin \left(-\frac{\pi}{4} \right)\] であり,時計回りに \(\pi/4\) 回転させるものとして見ることが出来ます。
また,ド・モアブルの定理より \(\alpha^4=-1\) も成り立ちます。これを使って \(Q(z)\) を整理すると \[Q(z)=\alpha^3 z^3 – 3 \alpha^2 z^2 +(c+2)\alpha z -c\] となり,\(P(z)\) と同じ形が出てきます。
あとは同じ要領で \(Q(z)=0\)を解くと (1) の解を図示させた意図を知ることが出来ます。
\[\alpha = \cos \left(-\frac{\pi}{4} \right) +i \sin \left(-\frac{\pi}{4} \right)\] であり,ド・モアブルの定理より \(\alpha^4=-1\) が成り立つ。従って \[\begin{align}Q(z) &=-\alpha^7 z^3 + 3 \alpha^6 z^2 +(c+2)\alpha z -c \\ &=\alpha^3 z^3 – 3 \alpha^2 z^2 +(c+2)\alpha z -c \end{align}\] これより \(Q(z)=0\) を解くと \[(\alpha z-1)(\alpha^2 z^2-2\alpha z+c)=0\] よって \[z=\alpha^{-1}, (1 \pm \sqrt{c-1})\alpha^{-1}\] これより \(Q(z)=0\) の解は \(P(z)=0\) の解を反時計回りに \(\pi/4\) 回転させたものであることがわかる。
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このうち実部が最大のものは \((1 -\sqrt{c-1})\alpha^{-1}\) であるので計算すると \[\begin{align} &(1 -\sqrt{c-1})\alpha^{-1} =(1 -\sqrt{c-1})\frac{1+i}{\sqrt{2}} \\ &=\frac{1 +\sqrt{c-1}}{\sqrt{2}} +\frac{1 -\sqrt{c-1}}{\sqrt{2}}i \end{align}\]
(3) の解答・解説
(3) 複素数 \(z\) についての2つの方程式 \(P(z)=0,Q(z)=0\) が共通解 \(\beta\) を持つとする。そのときの \(c\) の値と \(\beta\) を求めよ。
(2) より,\(Q(z)=0\) の解は \(P(z)=0\) の解を反時計回りに \(\pi/4\) 回転させたものであることがわかりました。
誘導に従って解の図形的な考察をすると,共通解を持つとは次のような状況であると考えることが出来ます。
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この状況がわかったら,あとは実部を比較し,道なりに計算をすることで答えを求めることが出来ます。
方程式 \(P(z)=0,Q(z)=0\) が共通解 \(\beta\) を持つとき,複素数平面上で解は次のようになる。
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これと (2) より,実部を比較すると \[\frac{1 +\sqrt{c-1}}{\sqrt{2}} =1\] これより \(c\) について解くと \[c=4-2\sqrt{2}\] また,共通解 \(\beta\) は \(c=4-2\sqrt{2}\) を代入して \[\beta =1+(\sqrt{2}-1)i\] である。
解いてみた感想
第1問に引き続き数Ⅲからの出題でした。
複素数の図形と方程式を絡めた問題は2022年の第3問にも類題があり,演習経験があったか否かで差が尽きそうな問題であると感じました。
絶対に落とせない (1) は取るとして,現役生の複素数に対する習熟度や試験場補正を考えると (2) まで完答出来れば御の字ではないでしょうか。
名大理系数学の中では標準~やや難の位置づけになるといえます。
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(1) でわざわざ図示させるという誘導が秀逸であると感じました
また,確率漸化式の枠が複素数に変わっているのは時代の変化でしょうか
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コメント
コメント一覧 (2件)
これって(2)でそのままα代入してから因数分解して、答えも有利化したんですけど減点くらうと思いますか?
採点はブラックボックスなんで断言は出来ないですが,開示を見ている感じ本試の採点はかなり点数くれるので答えが合ってるなら恐らく減点はないと思いますよ。あっても些細な気がします。