量子論のミクロカノニカル分布におけるゴム弾性のモデルを用いたフックの法則の導出方法をまとめます。
ゴム弾性のモデル
ゴムの弾性を考えるにあたり,次の設定のようにゴムを鎖と近似し,量子論的なミクロカノニカル分布を適応します。
- 1次元上で全長 \(L\) の鎖を考える
- 鎖は \(n \; (\gg 1)\) 個で長さ \(a\) の要素からなり,1つ1つが右向き(→)か左向き(←)の状態をとる
- 各要素の体積と質量は無視できるものとする
- 系はミクロカノニカル分布であり,エネルギーは \(U\) であり,要素数 \(n\) は定数
この設定のもとで,温度 \(T\) のときに鎖の長さを \(L\) に保つために必要な力を統計力学を用いて求めてみましょう。
状態数を求める
エントロピーを求めるために,まずは状態数 \(W(n)\) を求めます。
長さが \(L\) のときの状態数は右向き(→)の要素と左向き(←)の要素の場合の数を取れば良いので,そのためにまずは,右向きの要素の数を \(n_r\),左向きの要素の数を \(n_l\) とします。このとき配置の場合の数は \[W(n)=\frac{n!}{n_r ! n_l !}\] で求めることが出来ます。
エントロピーを求める
状態数を求めたので次にエントロピーを求めてみましょう。
状態数が \(W(n)\) であるとき,エントロピー \(S\) は \[S=k_B \log W(n)\] で与えられる(\(k_B\) はボルツマン定数)
ここで,要素の個数と鎖の長さについて \[n=n_r +n_l,\quad L=(n_r -n_l)a\] が成り立つことを使い, \(n_r,n_l\) について解くと \[n_r=\frac{na+L}{2a},\quad n_l=\frac{na-L}{2a}\] と表すことが出来ます。従って,エントロピー \(S(L)\) は \[\begin{align} S(L) &= k_B \log W = k_B \log \frac{n!}{n_r ! n_l !}\\&=k_B (n\log n-n_r \log n_r -n_l \log n_l) \\ &= k_B \left( n\log n- \frac{na+L}{2a} \log \frac{na+L}{2a} -\frac{na-L}{2a} \log \frac{na-L}{2a} \right)\\ &=nk_B\left(\log 2 -\frac{1}{2}(1+\frac{L}{na})\log (1+\frac{L}{na})-\frac{1}{2}(1-\frac{L}{na})\log (1-\frac{L}{na}) \right) \end{align}\] と計算することが出来ます。
計算の際にはスターリングの公式 \[\log n! =n\log n-n\] を使いました
ゴムの張力を求める
ゴムの張力 \(f\) を求めるにあたって先に熱力学第1法則を考えてみましょう。
いま,ゴムの長さを \(dL\) だけ伸ばすために必要な力は \(fdL\) であり,熱力学第1法則は \[dU=fdL+TdS\] と書けます。
ここで,仮定より内部エネルギーは配置の仕方に依存しないので \(dU=0\) が成り立ちます。これより張力は \[f=-T\left(\frac{\partial S}{\partial L} \right)_T\] が得られます。実際にエントロピー \(S(L)\) を代入して計算すると \[f=\frac{k_B T}{2a}\log \frac{1+\frac{L}{na}}{1-\frac{L}{na}}\] となります。この関数は \(\displaystyle \frac{L}{na} \ll 1\) のもとでマクローリン展開すると \[\frac{1}{2} \log \frac{1+x}{1-x}=x+\frac{1}{3}x^3 +\frac{1}{5}x^5 + \cdots\] より \[f=\frac{k_B T}{na^2}L+\cdots\] と出来るので,3次以降の項を無視すると
\[f=\frac{k_B T}{na^2}L\]
となり,ゴムにはフックの法則(=\(L\) に対する比例関係)が成り立つことがわかります。また,係数の部分は温度に比例することもわかります。
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