\(\sin x\) が \(x\) の整式としては表されないことを示せ。
中の人が高校生だった当時,期末試験の最後の問題として出題され面食らった記憶がある問題です。
調べたところ,この問題は1970年名古屋大学理系第5問が出典なのですが,2002年東大理系第6問(円周率 \(\pi >3.05\) を示す問題)や2006年京都大後期第6問(\(\tan 1\text{°}\) が無理数であることを示す問題)と似た匂いがあり,当時面白いな,と思った記憶があるので取り上げます。1
時間がある方はスクロールを止め,是非考えてみてください。
解答
直接示すのは難しそうなので背理法で示します。
基本的な方針として
- 三角関数の持つ周期性(=ある特定の要素を無限個持つ)
- \(n\) 次多項式の有限性(=ある特定の要素は高々有限個しか持たない)
から生じる矛盾を示す,という方針を考えると筋道が立ちやすいように思います。
\(\sin x\) が \(x\) の整式として表されると仮定する。すなわち \[\sin x = a_0 x^n + a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n\] と表されるとする。このとき,代数学の基本定理より \(\sin x =0\) の解は高々 \(n\) 個である。しかし,\(\sin x =0\) は無限個の解を持つため矛盾。従って題意は示された。■
東大の円周率の問題以上に解答はシンプルです。2
円周率の問題もそうですが,こういった問題は「難問」と呼ばれるタイプの問題ではありません。
恐らく赤本のレベル別表示をするなら一番簡単な評価になると思います
しかし
・問題文が短く,非典型であるためどこから手を付けていいかわからない
・入試という極限の緊張状態での証明問題
あたりの要素を考えると,正答率が決して高い問題とはいえないでしょう。
これらの要素に加え,解答自体は極めてシンプルなので採点がオール・オア・ナッシングになり,実際の試験では差がつく一問であったのではないでしょうか。
別解
先日この問題をX(旧Twitter)で投稿したところ,フォロワー数に比して多くの反響をいただきました(ありがとうございます)。
そこで様々な方の引用からなるほどな…と思う別解があったので紹介します。
別解1(微分すると元の関数に戻る性質を利用した証明)
\(\sin x\) が \(x\) の整式として表されると仮定する。すなわち \[\sin x = a_0 x^n + a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n\] と表されるとする。
このとき,両辺を4回微分すると左辺は \(\sin x\) であり,仮定より \(n\) 次式となるが,右辺は \(n-4\) 次式となるので矛盾。よって題意は示された。■
\(\sin x\) の微分を繰り返すと \[\sin x \to \cos x \to -\sin x \to -\cos x \to \sin x\] と戻ることを利用し,多項式の次数の不一致から矛盾を示す方法です。
図を書いて半ば直感的に示す解答と違い,別解の証明方法は数2の整式の性質で習う典型的な操作に持ち込めており,試験場で解く際の解答としては現実的な範囲にあるように思います。
また,大筋はほぼ同じですが,周期性など考えず,取り敢えず \(n\) 回微分してしまおう…という方法でも導くことが出来ます。
\(\sin x\) が \(x\) の整式として表されると仮定する。すなわち \[\sin x = a_0 x^n + a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n\] と表されるとする。
このとき,両辺を \(n\) 回微分すると \(n\) 次の多項式なら定数となるが,\(\sin x\) を \(n\) 回微分しても定数関数とはならないので矛盾。よって題意は示された。■
別解2(極値の個数の矛盾を用いた証明)
\(\sin x\) が \(n\) 次多項式だとすると極値は高々 \(n-1\) 個しか持たないが,\(\sin x\) の極値は無限にあるため矛盾。■
極値の個数から矛盾を用いて証明する方法です。
この方法は,想定解の「方程式の解の個数の数の矛盾を考える」方法と似たような証明になっています。
他にも別解がありましたらコメント欄からお願いします
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